日和見アカデメイア

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小川直子「博士の愛した数式」を読んで

 切なくそしてホロッと泣ける素敵な作品だった。数学というロジカルで無機質なテーマをよくぞここまで感動的な作品として昇華させたなぁと感心してしまった。以下において、この小説の感想を自分なりに書いていきたい。

 

 

 数学は好き嫌いがハッキリと分かれる学問である。簡単な四則演算(算数の分野)なら役に立つという実感があるのだが、抽象度が高くなる応用分野になっていくと、投げ出す人が急に増えてしまう。

 

 日本の受験制度は、幸か不幸か「文系」と「理系」という二元論で学問分類をしてしまっている。そのため、数学の得意な人と苦手な人の溝が深まっているため、苦手な人にとっては、数学という学問がある種のモンスター化しているといってもいいだろう。

 

 私が中高生の頃、数学という学問がどれだけ素晴らしいかを語ってくれる先生がいなかった。(その当時の私が数学の素晴らしさを理解できたかは甚だ疑問だが)そのため、定期テストのためによく分からない記号の羅列を暗記する退屈な科目だと思っていた。その結果、大学に入ってからの経済学や統計学、論理学の授業で、「あの時に数学をもっと頑張っておけば…」と後悔したものである。

 

 この小説では、記憶が80分しかもたない数学者「博士」と主人公たちの関わりを通して、数学の魅力が語られている。私は、数学は筋道がちゃんとしていれば裏切らない誠実さや、人を弄ぶような小悪魔的な悪戯心持ち合わせていると感じてしまった。このどこか矛盾した魅力が多くの人達を虜にしている所以なのではないだろうか。

 

 古代ギリシアの哲学者であるピタゴラスが、万物の根源を「数」だと考えた理由がなんとなく理解できた気がした。私も今から、中学生の頃の教科書でも引っ張りだして、数学という広大な宇宙に飛び込んでみたいと思う。